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おばんざいの楽しみ方|京都のお母さんたちの知恵が詰まった家庭料理を知る
京都といえば、色彩豊かな「おばんざい」が食卓に並ぶイメージがありますよね。お店では料理人が腕を振るって丁寧につくり上げていますが、本来は京都のお母さんたちが受け継いできた家庭料理なのです。
今回は京都のおばんざいについて知るために、「日本おばんざい協会」代表理事である川淵智子さんにお話を聞いてきました。
おばんざいとは?
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おばんざいとは、京都の忙しいお母さんたちがつくってきた家庭料理のこと。仕事と家事でいつも時間に追われていたお母さんたちは知恵を絞り、大切な食材を無駄なく使う「始末する」心で料理をつくってきました。これらのいわゆるお惣菜が「おばんざい(お番菜)」と呼ばれるようになり、現在ではおばんざいをはじめとする「京の食文化」は市の無形文化遺産に登録されています。
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京都のお母さんたちが料理をするうえで一番に考えることは「家族の健康」。そのため添加物が入ったものは使わずに、栄養いっぱいの旬の食材を使います。
旬野菜を使う理由としては、人間の体のサイクルとぴったり合っているからだそう。例えば、夏は脱水症状を防ぐため、水分を多く含んだ茄子やトマトといった夏野菜を使います。秋になると空気の乾燥から口や鼻の粘膜を守るため、秋が旬の長芋や蓮根を食べて体を保湿し、免疫力を高めます。また旬の野菜は栄養素が多く含まれ、特に山菜は成長ホルモンを増やす働きがあるそうです。
おばんざいは、健やかに成長してほしいという家族への思いがこもった愛情深い料理なんですね。
季節を味わう京野菜
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おばんざいで使われる野菜のほとんどは京都で育てられたもの。昔、京都は都として栄えていたため、全国から指折りの品々がたくさん集まっていました。京都は気候や土壌に恵まれた土地なので、もともと質のよい野菜たちはより改良され、今ではその一つひとつが名高いブランド野菜となっています。賀茂なす、九条ねぎ、聖護院だいこんなどの名前を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか? これらのように京野菜には育った土地の名前が付いているものが多くあります。
代表的なおばんざい
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京都では「おきまり」といって、毎月家庭で何を食べるのか決まっている日があります。例えば、1日は「家族がまめに暮らせるように」と小豆ごはんを食べる日なんです。
また、神社やお寺が多いため、祭礼で食べる料理といった行事食も大切に受け継がれてきました。
ここからは、川淵さんにつくっていただいた代表的なおばんざいをいくつかご紹介します。
大根と油揚げの炊いたん
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「炊いたん」とは、出汁や煮汁で食材をじっくりと煮込んだもの。大根は調理前に下茹でして余分な水分を抜き、乾燥させると、出汁がよく浸みわたります。
水菜と鶏団子の小鍋
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京都では昆布とカツオがベースの出汁を使用します。
京野菜である水菜は、苦味を抑えるために一気に加熱することがポイントなんだそう。
たけのことわかめの炊いたん
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たけのこもわかめも春が旬です。これらを一緒にいただくことを京都では「出会いもん」と呼び、ありがたくいただきます。一番出汁でゆっくり煮含めるたけのこは絶品。やわらかいわかめとの取り合わせが何よりのご馳走です。
九条ねぎとアオヤギのてっぱい
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白味噌と酢を入れて、九条ねぎと春に旬を迎えるアオヤギを混ぜ合わせた「てっぱい(鉄砲和え)」。
九条ねぎはやわらかく甘みがあるのが特徴で、これだけで完結してしまうほどの味わい深い野菜です。
ひじきやアラメの炊いたん
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カルシウムと食物繊維たっぷりのひじきはお出汁がなくなるまで炊くと、よりうま味や甘みを引き出すことができます。
おから
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京都には必ず町内ごとに豆腐屋があるほど、人々の生活に豆腐は欠かせません。そんな豆腐から出たしぼりかすを集めたものが「おから」です。月末の忙しい時期になると、メニューを考える暇もないお母さんたちは、冷蔵庫に残ったあり物を使っておから料理をつくっていました。
聖護院かぶらの漬物
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おいしい野菜が育つ京都では、独自の漬物文化が発展しました。なかでも、聖護院かぶらを薄く切り、塩漬けにした「千枚漬け」は京都の代表的な漬物のひとつです。
蓮根のごま和え
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ビタミンCと食物繊維を多く含む蓮根は、生のまま使うと効果的に栄養素を摂ることができます。茹でる際は、さっと短時間で加熱します。
連子鯛の蕪蒸し〜花菜のせ〜
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魚は骨からたくさんの味が出るため、2枚におろすのがポイント。出汁を大切にする京都では、魚は身だけでなく骨付きで選ぶ人が多いそうです。連子鯛の蕪蒸しに歯ごたえのある花菜をのせ、香り付けで削り柚を振りかけます。
これらの料理のように、おばんざいはひとつの野菜を主役にした料理がほとんど。京都の料理店に行くと、野菜の名前が料理名になったものをよく目にします。
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「料理は毎日違った味をつくり出せるのがいいんです。同じ味ばかりを食べていてはつまらない。調味料の量を正確に計るなど、そんなに気張る必要はないので、自分のためにも毎日料理を続けることを大切にしてください」と川淵さん。
知れば知るほど京都の食文化の奥深さを知ることができるおばんざい。どんなに忙しくても京都のお母さんたちが手料理にこだわってきたのは、京都という土地や家族への愛の深さからきていることを実感できました。
※掲載情報は、2023年2月時点のものです。価格等は変更になる可能性があります。
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【取材協力】「一般社団法人日本おばんざい協会」 代表理事 川淵智子
日本の調理師学校を卒業後、アメリカとフランスで海外の食文化やレストランビジネスを学び、飲食店のプロデュースやフードイベントの企画・運営やTV番組制作を担当する。2013年に京都大学大学院おばんざい研究会に参加。後、事務局としておばんざいの調査や地域保存会の方々との連携を構築し、大学内で発表交流会を催す。2021年に研究会から一般社団法人おばんざい協会に移行し、おばんざいの啓蒙活動とおばんざい伝承師の育成に活動の範囲を広げ、活動中。
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