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イタリアンの作法|アラカルトで組み立てるトラットリアの楽しみ方
「トラットリア」と聞いて、すぐにわかる人は少ないのでは? これはイタリア版の「大衆食堂」で、基本的にコースではなく、アラカルトでオーダーが可能です。そこで、今回はイタリアンに詳しいグルメブロガーkyah(キャー)さんのナビゲートで、男性が“イタ飯”デート前に知っておきたいトラットリアの楽しみ方を伝授してもらいました。撮影に協力いただいたのは、東京都港区の「トラットリア ダル・ビルバンテ・ジョコンド」です!
トラットリアとは?
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まず「トラットリアTrattoria」の基礎知識について。トラットリアは、イタリア版の「大衆食堂」です。アラカルトでのオーダーがメインですが、コース料理を出すややハイグレードなトラットリアもあります。トラットリアの上のグレードで、コース料理メインなのが、「リストランテ Ristorante」になります。
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こちらが今回のナビゲーターであるグルメブロガーのkyahさん。ポケットチーフが似合う大人って、いいですね!
まずはスパークリングから
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というわけで、トラットリアの楽しみ方をグルメブロガーkyahさんに聞いていきましょう。前述の通り、トラットリアのオーダーはアラカルトが基本です。ここでホスト側にオーダーのセンスが問われるわけです。
「まずは泡(スパークリング)からスタートが基本でしょうね。フランチャコルタあたりを置いている店が多いと思います。わからなかったら、フロアのスタッフにスプマンテのおすすめを聞いて、グラスでオーダーできるものを頼めばOKです」
スプマンテは、イタリアのスパークリングワインのこと。フランチャコルタは、中でもロンバルディア州フランチャコルタ地区でつくられるスパークリングワインを指します。こちらは、フランスのシャンパーニュに負けないクオリティなのだとか。
ちなみに、「シャンパン」と呼ばれるのはフランスのシャンパーニュ地方でつくられた一定の条件のスパークリングワインで、いわゆる「シュワシュワ」の総称ではありません。これはワイン豆知識の定番です。
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「飲み物のオーダーはホスト側(主に男性)がするのがいいですね。また、スパークリングを含むワイン類は、フロアスタッフに注いでもらうのが基本。テーブルにボトルが置かれても自分で注ごうとしてはいけません」
乾杯の際は、音を立ててグラスを合わせるのはNG。相手と目を合わせながら、軽く目線の高さにかかげるのがスマートです。これは、高価なグラスを傷つけないようにするための配慮です。
▼▼フランチャコルタをお届け▼▼
オーダーを検討する
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スパークリングワインがテーブルに届いたら、同行者と一緒に当日のオーダーをじっくり検討しましょう。アラカルトとはいえ、トラットリアには一定のルール(常識)があります。それは、Antipasto(アンティパスト/前菜)→Primo Piatto(プリモピアット/パスタ)→Second Piatto(セコンドピアット/メイン)の流れです。
「前菜2〜3品からパスタ、肉料理のメインに流れるのが基本ですね。そこで、当日のストーリーをどう立てられるかがホスト側の腕の見せどころ。まずは、相手にお腹の減り具合と苦手な食べ物を聞いて、当日の気分も踏まえながら、食事の全体像を描きます。メインが肉料理なら、パスタは海鮮系にして、前菜は相手のお腹のキャパに合わせて冷菜を1皿と温菜を1皿……そんな感じで決めてますね」
とはいえ、メニューを見ても何がなんだかわからないことも多いでしょう。今回訪れた「トラットリア ダル・ビルバンテ・ジョコンド」のメニューを見ていても「フリット」や「カルパッチョ」はなんとかわかるものの、「ラルド(豚の背脂の塩漬け)」や「アマトリチャーナ(トマト系パスタの一種)」とか謎のワードが並びます。そこへ、オーナーの渥美修一さんが助け船。
「お店側はどんどん聞いてほしいんです。聞いてほしいから、わざとメニューを本場風にしてますから(笑)。イタリア人は、スタッフとのコミュニケーションが大好きで、この会話から食事が始まっています。それも込みで楽しむのがトラットリアなんだと思いますよ」
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渥美さんによるとイタリア人は、トラットリアのディナーに2〜3時間かけるのが基本で、前菜からパスタに移るまでにワインを飲みながら1時間……というのは当たり前なのだとか……。
「最近は、ディナーにパスタを食べないイタリア人も多くて、多めの前菜からメインのみで終わる人もいます。そのへんを自由に選べるのがアラカルトの魅力なので、ルールにとらわれ過ぎずにオーダーしてくださいね」
ちなみに最近、メニューの料理名がわからず、スマホで調べているお客さんも多いと渥美さん。お店側から「どんどん聞いて」と言われると勇気が出ますね。
まずは数種の前菜から
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さてさて、前置きはこのへんにして、当日の料理を見ていきましょう。まずは、Antipasto(前菜)から。当日オーダーしたのは2品で、冷菜の「山形県産ラ・フランスとチンタセネーゼ豚のラルド」と温菜の「バッカラ フリット 塩だらのローマ風フライ」です。ほかにもイタリア産水牛モッツァレラチーズのサラダなどもありました。
「いろいろ頼みたい人は、前菜盛り合わせをオーダーするのもありですよね。お店によっては、予算に合わせて、内容やボリュームをアレンジしてくれる場合もありますよ」(kyahさん)
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ちなみにトラットリアでは、基本的に飲用水は出てきません。「ガス入り」か「ガスなし」かを指定して、お水もオーダーするのが基本です。
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まずは、「山形県産ラ・フランスとチンタセネーゼ豚のラルド」から。ラルドは、豚の背脂の塩漬け。これに旬の洋梨を合わせていただきます。ラルドの塩味が、完熟ラ・フランスを引き立てます。
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ここでポイントは、ホスト側が小皿にサーブすること。さらにkyahさんには、サーブ法のこだわりもあるといいます。
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「まず自分側の小皿にひとり分を盛って、相手に渡してあげるのがスマートだと思います。それだとワイングラスを倒したりする心配も減るんですよね」
なるほど! 確かにスマートだし、女性側からしたら「自分の先に取るんだ……」と思ったところに、「君の分だよ」と手渡されるちょっとした驚きもありそうです。
ただ、初めてのトラットリアでこれはさすがにハードルが高いので、フロアスタッフに取り分けを頼んでも大丈夫です。まずは盛り付けのアレンジを目で楽しんだ後に、2名分に取り分けてもらうのがスマートです。
▼▼ラルドをお届け▼▼
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続いて、前菜2品目の「バッカラ フリット 塩ダラのローマ風フライ」。「バッカラ」はイタリア語で「タラの塩漬け」のことで、スペインでは「バカラオ」、ポルトガルでは「バカリャウ」と呼ばれているメジャーな食材です。
こちらでは、フリットでいただきます。「ベローネ」という品種のスッキリ系の白ワインをグラスで合わせてもらいました。
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大皿に添えてあったサーブ用の大ぶりなフォークとスプーンで、小皿へ。サーブする際は、右手(利き手)にフォーク、左手(反対の手)にスプーンが基本です。
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フリットは、ナイフで切ってから、レモンを搾っていただきます。カリッと揚がった厚めの衣にふわふわの白身がよく合います。
第1の皿「パスタ」へ
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前菜に続いて、登場するのはPrimo Piattoのパスタ。これは「第一の皿」を意味しています。イタリアでは、メインディッシュの前に、パスタを食べるのが定番です。
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運ばれてきたのは、「ブカティーニ アマトリチャーナ」。ブカティーニは、ローマ周辺でよく用いられる太めのロングパスタで、中央に穴が空いています。アマトリチャーナは、アマトリーチェという町の名前に由来するトマトソースのパスタ。グアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)やベーコン、ペコリーノ・ロマーノ(チーズの一種)を用いるのが一般的です。
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トマト系パスタが運ばれてきた辺りで、グラスの赤ワインに移行するのがいいでしょう。今回は、プリミティーヴォという品種を使ったやや重めの赤をグラスで合わせてもらいました。
「迷ったら、フロアスタッフに料理に合うワインを聞くのがおすすめです。『今日のパスタに合う赤をグラスで』と言えば、ぴったりの銘柄を合わせてくれます。私はボトルで頼むより、料理ごとに合わせるペアリングが好きですね」
ペアリングとは、料理1品ごとにワインを変える組み合わせのこと。最近は、ワインのペアリングを前提としたコース料理を用意しているイタリアンレストランも見かけます。
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ここでもkyahさん、しっかり女性にサーブしてますね。パスタソースが洋服についてしまう心配がなくなるので、女性はうれしいかもしれません。
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ここでパスタを食べるときの豆知識。本場イタリアでは、パスタにスプーンはついてきません。ロングパスタの場合、2〜3本目安でお皿の端に運んでくるくる巻いて、ひと口大にして食べるのがスマートです。
▼▼パスタソース食べ比べセット▼▼
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第2の皿「メイン」へ
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Primo Piattoの次はSecond Piatto。「メイン料理」の登場です。当日オーダーしたのは、メキシコ産「若姫牛」サーロインのタリアータです。 「タリアータ」は、薄切りにした肉料理全般のこと。「切れている」を意味するタリアーレ(tagliare)が語源です。
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ここでもしっかりサーブすることは忘れません。さすがkyahさん、男性はマメさが大事なんですね!
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肉料理は、とにかく温かいうちに食べるのが基本です。ここはおしゃべりを小休止して、食べることに集中しましょう。サーロインながら脂がしつこくない逸品で、牛肉のうま味を堪能できました。
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「トラットリア=イタリアの大衆食堂」とはいえ、東京でトラットリアを訪れる際は、男性はジャケットが基本でしょう。女性もワンピースなどちょっとおしゃれをして出かけたいところです。そのへん、どうなんでしょう? kyahさん!
「服装はそこまで堅苦しく考えることはないと思いますよ。ただ、短パン・Tシャツ・サンダルとかはないかな……。私の場合は、イタリアンのときは、イタリア製の革靴を合わせたりして、気分を上げてますね」
▼▼近江牛のサーロインをぜひ▼▼
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仕上げはドルチェ
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あっという間にイタリアンの宴はフィナーレへ。最後は、ドルチェで締めましょう。ドルチェは、イタリア語で「スイーツ」のこと。ティラミスやパンナコッタ、ジェラートなどが定番です。お店のおすすめを聞いて、オーダーしましょう。当日頼んだのは、ピスタチオのティラミス。
「イタリア人は、ドルチェまでワインを飲んでいることも多いですね。メインの後、チーズを頼んで、ボトルワインの残りを飲みきる人もいます。ドルチェに合うワインをグラスで追加オーダーするのもかっこいいですね」
▼▼なめらかなティラミス♪▼▼
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エスプレッソで〆
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エスプレッソが出てきたら、やっと食事終了のサイン。イタリア人は、ここから食後酒に流れるパターンも多いのだとか。みなさん、お酒、強いんですね……。
トラットリアの作法、いかがでしたか? 最後にkyahさんに締めてもらいましょう。
「イタリア本国にも何度も行ってますが、やはりイタリア料理は素材を活かしたシンプルなメニューが多い。だからこそ、トラットリアでその日のおすすめを聞いて、それに合わせたオーダーを組み立てるのが楽しいですね。知らないことは、なんでもスタッフに聞く。実はこれが一番スマートなんです。コミュニケーションを存分に楽しむのが、イタリアンの作法だと思いますよ!」
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【ナビゲーター】kyah
大人のための旅と食情報を発信する人気ブログ「漢(オトコ)の粋」を18年以上運営。なかでもイタリアンをテーマにした記事が多い。雑誌やテレビなど各種メディア への寄稿・出演をはじめ、読者モデルとしても活動している。
※掲載情報は、2022年11月時点のものです。価格等は変更になる可能性があります。
ローマの下町にあるトラットリアを彷彿とさせる温かみのあるインテリアが特徴的なトラットリア。ローマ周辺の料理を中心に、さまざまなメニューを取り揃えている。ワインのセレクションも豊富で、料理に合わせてグラスでオーダー可能。大切な人と訪れたい特別なお店だ。