日本のお弁当|「崎陽軒のシウマイ弁当」冷めてもおいしいワケ
横浜といえば、シウマイ弁当! 1日約27,000個を売り上げる人気弁当はハマっ子のソウルフードといっても過言ではないでしょう。「ロケ弁」としても人気で、著名人もそれぞれ食べ方にこだわりがあるとか……。今回は、そんなシウマイ弁当について、「崎陽軒」の広報・山本茜さんに台湾人作家 張維中さんが話を聞きました。
横浜名物、シウマイ弁当とは
神奈川県横浜市のお弁当の代名詞であるシウマイ弁当。1954年の発売以降、横浜とともに歴史を紡いできた「崎陽軒」の看板商品です。「日本で一番売れている弁当」と多くのメディアで謳われ、今では1日に約27,000個ものシウマイ弁当が売れるといいます。
気になる弁当の中身はこちら。
俵型ごはん(小梅、黒胡麻)、昔ながらのシウマイ、鮪の漬け焼、蒲鉾、鶏の唐揚げ、玉子焼き、筍煮、あんず、切り昆布&千切り生姜。
目玉のシウマイが5個も入っていて、おかずが豊富なのはうれしいポイント。
今回はgoodie foodieのパートナーである東京在住の台湾人作家 張維中さんと一緒に「崎陽軒」本社に伺い、「シウマイ弁当」に込めた想いや海外進出について話を聞きました。
シウマイ弁当誕生秘話
山本「崎陽軒には2つの看板製品があります。1つ目が昔ながらのシウマイ、2つ目がシウマイ弁当です」
張「シウマイ弁当は昔ながらのシウマイの後に誕生したんですか?」
山本「そうなんです。昔ながらのシウマイは1928年、シウマイ弁当は1954年に誕生しました。昔ながらのシウマイは、最初の頃、1日に10〜20箱しか売れていなかったんです。そこで初代社長がシウマイ娘を横浜駅に導入しました。赤いチャイナ風の制服でシウマイを売り歩く女性の姿が話題となり、知名度が一気に上がったんです。崎陽軒は駅弁屋なので、その後名物のシウマイをメインのおかずとした弁当をつくるのは自然の流れでした」
張「そんな背景があったんですね。シウマイ娘はどうしてそんなに話題になったのですか?」
山本「当時、駅弁を売っていたのは男性がメインでした。そんな中、きれいな女性たちがシウマイを売り歩く姿が斬新だったようで。毎日新聞の連載小説でシウマイ娘と野球選手の恋物語が掲載、後に映画化したこともきっかけですね。そのおかげで今では東京・神奈川におよそ160店舗を展開するまでとなりました。地方の催事に出向くこともありますが、基本は関東から出ないスタイルを貫いています。崎陽軒は横浜とともに成長してきたので、これからもローカルブランドとして発展していくつもりです」
“冷めてもおいしい”には、こだわりの〇〇があった
実はシウマイ弁当を食べたことがないという張さん。話を聞きながらさっそくいただくことになりました。食べる直前、山本さんからこんなことが。
山本「張さんはシウマイ弁当を横向きにして食べるんですね!」
張「それ気になっていました。弁当の向きは決まっているんですか?」
山本「いえ、特に決まっていません。おかずやごはんの位置で4パターンの向きが存在するんですが、人によって変わるからおもしろいんですよ。ちなみに崎陽軒の現社長は張さんと同じ横向き派です」
張「ではメインのシウマイからいただきます。モグモグ……うん、おいしいです。 実は食べる前に気になってたことがあって。僕の地元の台湾では、冷めてしまった食べ物をあまり食べない傾向にあるんです。特にシウマイは冷めると脂っこくなるイメージがあるから、全然そうじゃなくて驚きました」
山本「そこに気づいてくれてうれしいです。崎陽軒のシウマイは、“冷めてもおいしい”を大切にしています。崎陽軒がシウマイをつくり始めたのは、初代社長が『横浜ならではの名物をつくろう』と中華街を探索して、どの店でも出されていた突き出しのシューマイからヒントを得たのがきっかけなんです。でもシューマイは冷めると味が落ちてしまって……。そこで干帆立貝柱を混ぜ合わせました。そうすることで冷めても風味豊かに、味の落ちない“シウマイ”が完成したんです」
張「家に持ち帰ってもおいしく食べられるなんて、珍しいと思います」
山本「崎陽軒のシウマイは化学調味料や保存料は一切使用していません。そのままで食べても十分おいしいですよ。5つ入っているので、からしだけ、醤油だけ、両方で……などいろんなパターンで食べられるのもいいですよね」
こだわりはシウマイだけじゃない
山本「“冷めてもおいしい”のは、シウマイだけじゃないんです。ぜひごはんも食べてみてください」
張「モグモグ……、これは餅米ですか?」
山本「それが、違うんです。もちもちしてるのでそう思う人が多いんですけど、崎陽軒が使っているのはうるち米です。秘密は蒸気炊飯方式という炊き方にあって、高温のスチームで蒸しているんです。冷めてもお米がべちゃっとせず、もちもちにキープされます。木の容器が余分な水分を吸ってくれるので、弁当の中の水分量をコントロールできるのもいいところです」
張「だからこんなにごはんがおいしいんですね。ほかのおかずは季節によって変わるんですか?」
山本「シウマイ弁当の中身はずっと同じです。過去に遡ると、一時期だけ鮪の漬け焼がブリの照り焼きになったりなどマイナーチェンジはありましたが、今のシウマイ弁当のおかずは2003年から変わっていません」
張「そうなんですね。おかずも色とりどりでたくさんありますね」
山本「弁当の幕の内スタイルに合わせて、三種の神器と言われる焼き魚・玉子焼き・蒲鉾があるのが特徴です。シウマイを食べ終えてしまってもごはんが進むよう、バランスを重視しています。自家製シロップに漬けたあんずも甘酸っぱくて独特のおいしさがあります。最初に食べて、その酸味で食欲を増進させる人もいれば、デザートにするため最後まで取っておく人もいます。個人的には鶏の唐揚げと一緒に食べるのがおすすめです」
▼▼崎陽軒の詰め合わせ▼▼
崎陽軒が海外進出で実現したいこと
2020年8月、崎陽軒は張さんの地元である台湾に海外1号店をオープンしました。横浜名物であるシウマイをどうして海外へ進出させたのでしょうか。
張「台湾に店舗がありますよね。弁当だけじゃなくて、イートインもあるって知って驚きました」
山本「知ってくださっているんですね! そうなんです、シウマイも売っていますし、イートインなども行っています」
台湾崎陽軒 八德敦化店
張「おもしろいですね。崎陽軒はシウマイ以外にもさまざまな事業をされてるんですね。横浜名物のシウマイをどうして海外へ持っていったんですか?」
山本「横浜や日本の駅弁文化に興味を持ってくれる人を増やすためです。名物シウマイと、日本の駅弁文化を知ってもらい、横浜への観光誘致につなげたいと考えています」
張「そうなんですね。台湾を1店舗目に選んだ理由はありますか?」
山本「台湾にも駅弁(便當)文化があることです。ですが日本の文化とは若干異なっていて……。台湾では温かい食べ物が好まれていて、駅弁は電車に乗る前に食べ終えてしまうそうです。そのため日本の駅弁文化を台湾へ紹介することは食文化の交錯になり、自国の食文化のルーツを改めて知ることにつながると信じています。シウマイ弁当をきっかけに横浜をもっと盛り上げていきたいですね」
多様な製品開発
レストラン運営も行う崎陽軒は、シウマイに限らず菓子類や中華まん、レトルト食品などの自社製品も持っています。今回はおすすめの「横濱パイナップルケーキ 黒糖」をいただきました。
張「これはおいしいですね。まるい形のパイナップルケーキは初めて見ました。日本でパイナップルケーキをつくってる会社って珍しくないですか?」
山本「ありがとうございます。元々期間限定の製品だったのですが、反響がよく通年の製品になりました。生地に混ぜた黒糖の深い味わいと、中のパイナップルジャムの酸味がとてもよく合うんです」
張「崎陽軒は弁当やお菓子のほかに、中華まんやレトルト食品などさまざまな商品がありますよね。しかもどれも期間限定の味があったりして、見ていて楽しいです」
山本「崎陽軒はどの食品も製品開発を頻繁に行っています。経営理念のひとつに、お客さまの心も満たすという言葉があるんです。お腹だけじゃなくて食卓も楽しんでもらいたい、崎陽軒の製品で楽しい食の思い出をつくり続けてほしい、そんな願いのもと今日もさまざまな製品を送り届けています。
これからは日本だけでなく、海外の方にもそんな食体験を届けられたらと思っています。そのきっかけが横浜名物シウマイ弁当だととってもうれしいです」
【ナビゲーター】張維中
作家・コラムニスト。台湾・台北生まれ。1997年長編小説で作家デビュー。以降、小説、エッセイ、旅行記、児童書、絵本など、作品は多岐にわたり、現在までに約30点を出版。2008年に来日し、東京を生活の拠点として創作をするかたわら、日本の最新情報を発信し、訪日旅行メディア「歩歩日本」の編集長として旅行情報の発信も行っている。近著にエッセイ『東京男子部屋』。
【取材後記】
日本の「駅弁」といえば、絶対に欠かせない名前の一つが「崎陽軒」のシウマイ弁当です。この横浜発祥の弁当ブランドは、長い歴史を持ち、「駅弁」の成長を見守ってきて、「駅弁」を広める役割も果たしています。台湾でも崎陽軒の店舗があり、日本が好きな人たちにとっても馴染み深い存在です。今回は横浜の本店を訪れ、おいしい弁当をいただくだけでなく、崎陽軒シウマイ弁当の中に広がる小宇宙を深く知ることができました。あと、横浜には崎陽軒の大きなレストランもあることを初めて知りました。中華料理から洋食、異国料理、さらにはヨーロッパ風のアフタヌーンティーまで、様々な料理が楽しめます。次回横浜を訪れる際には、崎陽軒を観光スポットリストに加えてください!
▼▼崎陽軒のシウマイお取り寄せ▼▼
※掲載情報は、2023年6月時点のものです。価格等は変更になる可能性があります。
創業は1908(明治41)年。「昔ながらのシウマイ」や「シウマイ弁当」など横浜名物を世に送り出し、現在は東京・横浜を中心に約160店舗を展開。レストラン事業やウエディング事業も行い、横浜市民の生活に寄り添い続けている。撮影協力は「崎陽軒本店ショップ」。